それだけでいいのに。
江國香織の本が好きだ。古本屋に入るたびにあ行を追っていって、家の本棚にないタイトルを買う。出版社のそろわない、薄い文庫本。書体や装丁をみると、角川のものが好きだ。どことなくぼんやりとした目の疲れにくい文字の濃さ、うつくしい余白。
おそらく同じことを考えている女性は日本にごまんといるのだろうが、私はもうひとりの江國香織なのではないか。あるいは、すべての少女はなんらかの記憶を共有しているのではないか。彼女の本を開くと十数ページごとにそんな気がしてくる。ああ、そう、そうだ、私はそう思った、そうか、これは私の記憶でもある—そんなとき私はまずうつくしい余白に目を逃がして、茶色の栞紐をはさんでから本を閉じてしまう。そして顔を上げる。そのときだ。そのとき、私はあなたがいてくれたらいいのにと思う。部屋を見渡して、そこの毛布のふくらみからあなたの呼吸が見えたらと思う。それだけでいいのに。そう思う。私は本を置いて、毛布にくるまってみる。そしていつの間にか眠ってしまう。